古代に発生した庶民の苗字
氏と姓のページで支配階級の苗字を見てまいりましたが、ここでは庶民といっていいのかわかりませんが、一般人の
苗字についてみていきましょう。
部の民の苗字
古代の庶民は大化の改新までは朝廷、皇族、豪族に隷属した農民や職業集団を構成構成する民で、部(ベ)の民、部民、
部(ベ)と呼ばれました。
ただ奴婢(ヌヒ=奴隷)とは違って、自営的な家族生活を営み、所属する豪族のために貢物や労役を提供しました。
部の民は完全な私有民ばかりでなく、納税によって管理されている程度のものもあったようです。ほとんどは
農民(田部)でしたが、漁民や工具、武器つくりなど特殊技能持ちの部民(弓削部、鍛冶部、服部)もいました。
「部」の名称は五世紀のはじめに皇室所有の「伴」(トモ=世襲的職業で朝廷に奉仕する官人の団体)や、帰化人の
技能集団に用いられ、それが広まったものです。
農民は田部という部の民であり、服部(機織部=ハトリベ),玉作部、犬養部、馬飼部など職種の名称の部の民のほかに
特殊な部民もありました。
豪族の名の付いた蘇我部、安曇部などや、天皇や皇族のために特におかれた御名代(ミナシロ)、御子代(ミコシロ)の
ように天皇、皇后、皇子などの名を後世に残すために設置された部がありました。
これらの部民は大化改新以後に公地公民制が採用されたため廃止されました。
一般の公民については、670年(天智9)の庚午年籍、690年(持統4)の庚寅年籍によって、すべて戸籍に登載されることに
部姓を主とする氏姓制度が完成されることになりました。
彼らはこの部の名称を苗字とされていたのでしょう。
正倉院には奈良時代の戸籍が残されており、一つの郷の構成員の大半が「孔王部(アナホベ)」名乗っていたり、
「刑部(オサカベ)」で占められています。
部の付く苗字の広がり
部の付く苗字はやがて各地に広がります。
先にあります蘇我氏や安曇氏は大族であったため、部の民も多く、一族は全国に散在しました。
蘇我部は、曽我部、宗我部などとも書きますが、同じルーツと思われます。
また安曇も厚海、厚見、安住などとも書き、これらの部民は各地に住み、その地の部の長に率いられ、農産物、
海産物、労役を納めました。
こうして部民が住み着いた各地に、部族の名が付けられました。その地は○○部と呼ばれ、時代を経て部を略して、
○○とその氏(ウジ)名だけで呼ばれるようにもなりました。
こうして氏名が地名になり、後世そこの居住者はさらにその地名を呼称に用いました。
また部を抜かした地名や苗字はもっと多くなったことは間違いないでしょう。
職業部から生じた苗字
まずは職業部から発生した名字を見てみましょう。
田部 屯倉に属する田を耕作する職業。
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タベ系 田部、多部、多配、田倍、田戸。
タノベ系 田部、田野辺。
タナベ系 田辺、棚部、田名部、多名部、多辺、田鍋。
安曇 海人(アマ)部を率いて海産物を扱った部で、信濃の山中にまで広まったほどの勢力がありました。
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アズミ系 安住、安積、安海、握美、熱海、阿住、阿基、阿墨、阿澄、阿積。
アツミ系 厚味、厚海、厚美、渥美、渥海、握美、熱海、温海、敦海、英積。
アマ系 吾間、天、安摩、尼、海人、海士、阿万、阿摩、阿満、阿間、阿万。
アマベ系 天部、海部
カイフ系 海浮、海部、貝部
カイベ系 海辺、海部
磯部 漁業、航海の職業部。安曇氏の海部氏が日本西海側、磯部氏は伊勢を本拠とする東海で活躍しました。
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イソベ系 五十部、石磯、石辺、石部、磯辺、磯部、礒部。
イソ系 五十、伊蘇、石、磯、礒
犬飼部 犬を飼育して狩猟、番犬などに用いた。
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イヌ系 伊努、犬
イヌガイ系 犬飼、狗飼
イヌカイ系 犬甘、犬飼、犬養、狗飼
その他の狩猟、漁業、飼育の職業部
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トリカイ系 鳥海、鳥甘、鳥貝、鳥飼、鳥養
ウカイ系 鵜飼、鵜養、雨海、兎飼
イカイ系 猪飼、猪養、猪貝、井海、井貝、伊介、伊海、五十井
ウマ系 右馬、宇摩、宇間、馬、馬飼、馬養、飼、飼部
斎部(インベ) 忌部と同じく神事にたずさわる職業部です。
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井三、井美、伊実、伊美、忌部、斎部、井部、伊部、印部
土師部(ハジベ) 土器を製作する職業部。
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土師、吐師、土浦、枦、櫨、埴石
膳部(カシワデベ) 多くの人のために食事を作る職業部です。
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柏、柏葉、樫葉、柏手、膳、膳天、膳夫、膳臣
服部(ハトリベ) 機織部(ハタオリベ)のことで、衣服を作る職業部です。
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服部、服取、服平、服、織、織部、八取、八鳥
矢作部(ヤハギベ) 矢を作る職業部です。
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矢作、矢萩、矢秋、矢、八萩、矢部、矢辺、夜部、八部
弓削部(ユゲベ) 弓を作る職業です。
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弓、弓取、弓部、弓下、油下、由家、由解、結解
渡部(ワタリベ) 渡し船を業とした職業です。
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渡、亘、和、渡部、和田鍋、渡辺、渡鍋、競、綿部、綿鍋
職掌から生じた苗字
職掌(うけもったやくめ、つとめ)は主として官職名でしたが、世襲として受け継がれ苗字となったものです。
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大蔵 大蔵省の役人。
大倉 大蔵に同じ。
木工 木工寮の役人。
工藤 木工寮の助(スケ)の役職の藤原氏。
首藤 主馬(スメ)寮の主馬首の役にある藤原氏。
斎藤 斎宮頭に任ぜられた藤原氏。
滝口 御所の滝口の陣を警護する武士の役職名から。
監物(ケンモツ) 中務省で大蔵、内蔵などの出納を扱った職名から。
進士 官吏登用試験に合格した者の称号。
太宰 大宰府の役人。
国司 国司の職から。
郡司 郡司の職から。
税所(サイショ) 国衙の租税などを扱う税務所。
調所 調べ物を扱う。
勘解由 国司交替の事務を扱った勘解由使から。
目(サツカ) 四等官の属(サカン)のことです。
団 軍団の将校の職名。
国領 国領の職名から。
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